「げんこつやまのたぬきさん」、「いとまきのうた」、「おべんとうばこのうた」などの作詞の経緯について

※この項目は、香山美子、小森音楽事務所、信託社各社、JASRACへの聞き取りなどを元に、著作権事務担当者からお知らせいたします。

 香山美子作詞・小森昭宏作曲となっている、以下の作品については、香山美子が補作詞してレコード化(CDその他も含む)されてきたものです。
 ところが問題なのは、楽曲として登録する際に、少なくともJASRACの公開データベース「J-WID」上では、全て「新曲」(PD=パブリック・ドメイン部分が存在しない詞曲)として登録されており、これがその後の混乱の元にもなっているようです。

●げんこつやまのたぬきさん

●おべんとうばこのうた

●いとまきのうた

●おおきなくりの木のしたで(レコードの表記に準ずる)

 これらの作品は、もともとコロムビアレコード社(当時)から、「わらべうた部分だけでは、尺が短すぎてレコードにならないので、そのあとの部分を作詞してもらえないか」という依頼を受け、当時のプロデューサーさんや、作曲の小森昭宏先生とともに制作したものです。
 しかし、時間の経過とともに、そのような経緯を知る人も、亡くなったり、退社されたりしたため、最近に至り著作権信託社も事情がわからなくなり、混乱や補作詞部著作権の無断利用が発生することになりました。

 しかし、その後詳細な調査を行った結果、ひとまず「いとまきのうた」については、下記のことが判明しましたので、今後の処理について要望をお知らせ致します。
 まず、当時の新聞記事から、コロムビアレコードが見つけてきた曲は、デンマーク民謡「シューメーカーズ・ダンス」です。これが「いとまきのうた」の元になったことは間違いありませんでした。
 JASRACに作品届が出されていますが、1つは「テレビ朝日ミュージック」社からのものであり、それには、「全体が新規作詞・新規作曲」(つまりPD部分無し)として届け出されています。しかし、「注釈」が同時に書かれており、それには、「冒頭から4小節は外国曲」と記載されていることが判明しました。一方、作曲者側から「詞曲共に冒頭から8小節は外国曲」との届け出が出ている旨の報告を、JASRACから受けましたが、これについては未確認(今のところ作品届の内容が確認できてない)ので、経緯が不明です。これはJASRACからの作品届の開示を受けて、内容をよく検討しないと疑問点が残ります。

 ただ、この作曲者による「詞曲共に冒頭から8小節は外国曲」との届けによる、「8小節」とはどこまでなのかが今のところ不明瞭で、こちらでも検討しましたが、下記歌詞カードにある「いーとまきまき、いーとまきまき ひいてひいて トントントン」の2回繰り返しを8小節と計算しているのではないかという疑問が新たに発生します。そうすると、テレビ朝日ミュージックによる作品届(4小節まで外国曲として、残り4小節は繰り返しなのでその部分を含んでない?)と、整合が取れそうにも思えます。

 当初この記述を書いた時より、やや調査が進んで混迷度が増しているようにも思えますが、現状ではこれらは、契約上およびJ-WIDが公表する権利として、

「いーとまきまき、いーとまきまき ひいてひいて トントントン」から、「こびとさんのおうちは ゆめのくに」

…という歌詞全体について、香山美子が著作権を有するが、「冒頭から4小節は外国曲」という注釈があるので、1番の頭から4小節については権利を行使しないものとしている状態、と解するよりありません。
 このことは、作詞当時はJASRACと信託社である「テレビ朝日ミュージック」、「作曲者」のいずれも、詞曲ともに共通する認識になっており、作詞に関してと作曲に関してで著作権の行使される範囲が異なるなどということはなかったのですが、その後の時間の経過と共に、主として作品届の内容認識にズレが生じているというのが実際のところではないかと思います。
 なお、契約書上も補作詞については触れられていないので、契約書からは全体が新規作詞・新規作曲であるという契約内容しか読み取れませんでした。

 それでは、「4小節目」とはどこなのか、ということですが、「採譜の仕方により異なる」等とJASRACは説明するものの、今のところ得られている知見では、「いーとまきまき、いーとまきまき ひいてひいて トントントン」までであることがまず明確と思えるので、多少矛盾している書籍資料などもあるようですが、それらは出典が明らかでない物もあり、一応上記のように書いておきます。
 よって、詞曲全体(冒頭の「いーとまきまき〜トントントン」までも含む)に香山と小森昭宏先生の著作権は及ぶものの、冒頭から4小節分の「いーとまきまき…トントントン」までは、著作権を行使しない、つまり「PDに準ずる」箇所となっていることが判明したと言えると思われるので、その旨お知らせします。
 具体的には、下記のレコードに示された歌詞の、「赤で囲った部分」には権利を行使しない、ということになります。他の部分につきましては、詞に関して香山美子の、曲に関して小森昭宏先生の著作権処理が必要な部分ということです。

いとまきのうた歌詞部分の画像

 本曲に関して、一部のサイトでは「作者不詳」としていたり、また「デンマーク民謡」などする一方、歌詞は香山作詞歌詞を載せている例もありますが、それらは全て「間違った情報を掲載」していることになります。順次訂正をお願いします。また、掲載自体が「商用利用」になっているサイトについては、今後何らかのアクションを取らざるを得ませんのでご了解下さい。

 わらべ歌の類は、誰がいつどのように採譜したのか、どの曲に詞を付けたのかによって、レコード(記録)としてそれが固定されたのはいつか、等により、わらべ歌(PD)と考えられてきたものでも、著作権が新たに発生するケースも考えられます。特に元の楽曲にアレンジがかけられている場合(かけざるを得ない場合も含む)、それは二次的な新著作権の発生と見るべきなのかどうか、について、かつてはJASRACの作品届もかなりアバウトで、作曲者のみしか作品届を提出してないで、そのまま登録されているケースなども見られますし、必ずしも最初に届を出した人のみが有効ということも、実務としてはありません。こういうことが後々トラブルを生む原因なのですが、時間をさかのぼれないので、時間経過とともに共有されていた認識が、次第に人が変わるなどにより変化していってしまうのは、残念ながら致し方ないのかもしれません。後の世代の人々が苦労するのですけどね。
 この「いとまきのうた」ではありませんが、意気揚々と「当時を知る人を紹介できる」と言っていたテレビ局の担当者も、その後よくよく話を聞いてみたら、その当時を知るという人は既に”いろいろお忘れになっていた”というケースもありました。

 したがいまして、とりあえず「いとまきのうた」(別な曲名に変換している場合も含む)を、楽曲として利用する、詞を何かのメディアに掲載する、演奏する、その他利用する場合には、著作権法が定める特例を除き、所定の著作権処理が必要となります。テレビ朝日ミュージック宛てに著作権の利用申請をして下さい。また、替え歌にしてCMに利用する場合等は、テレビ朝日ミュージックを通じて香山美子宛に許諾申請をしていただく必要があります(著作者人格権に基づく)。まずはお問い合わせ下さい。

付記:現在、本件はなお調査を要する部分が残っていると思われます。今回の調査と矛盾するデータを掲載しているHP等に、元の出典を問い合わせるなどしたのですが、現状調査できた範囲では、それらのページも、大もとの出典を明示出来なかったり、人からの又聞きであったりと、はなはだ信用するに足るデータではありませんでした。特に連絡が全く付かないページなどもあり、調査に支障となるケースも存在します。そのためもう少し時間をかけて調査は進める予定ですが、今のところ「いとまきのうた」以外では、補作詞部分とPDに準ずる部分の分界点が不明瞭というケースは見当たりません。よって、現状JASRACも、明確な情報を出せない状態なので、当面上記のように処理していただくより無いかと思います。
 なお、著作財産権の帰属は、楽曲の場合それを管理する会社や法人に登録された内容、及び管理信託をしている場合はその管理者との契約内容をもって確定させることになり、契約である以上、著作者側であってもそれらに依拠するしかありません。
 

2022年4月6日著作権事務担当者調査・記載。2022年4月9日追記。2022年9月17日訂補。

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